烟るにおい
彼はときどき、
それは死ぬ時にわかる/死ぬ時にしかわからない
という。
幸せかどうか
この選択が正しいかどうか
どの思い出が大切か
そういってぎゅっと抱きしめられて
その話はおしまいになる
腕の中でその言葉を聞くたびに
ひとまわり以上年上の彼の
葬儀のシーンを思い浮かべる
騒つく葬儀会場で私は
誰にも気づかれないよう彼のそばにそっと寄り
答え合わせをする
あの時の時間
あの時の選択
あの時の言葉
正しかった?まちがいだった?
後悔してない?
しかし彼は答えない
私には正解だったかどうかはわからない
短く答え合わせを済ませ
何くわぬ顔で人々の中に戻り
焼かれて煙になった彼を見送る
私は小さく手を振って
おかしなぐらい晴れた冬の昼を
そっと歩いて帰るのである